大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌地方裁判所 平成10年(ワ)123号 判決 1999年8月30日

原告

上野光夫

外一二名

右一三名訴訟代理人弁護士

猪狩久一

猪狩康代

奥泉尚洋

大賀浩一

竹之内洋人

右奥泉尚洋訴訟復代理人弁護士

猪野亨

被告

鈴蘭交通株式会社

右代表者代表取締役

光安又吉

右訴訟代理人弁護士

橋本昭夫

大川哲也

朝倉靖

主文

一  被告は、別紙未払賃金目録(一)記載の原告らに対し、同目録「未払賃金額」欄記載の各金員及び同目録「平成9年12月22日までの遅延損害金」欄記載の各金員を支払え。

二  被告は、別紙未払賃金目録(二)記載の原告らに対し、同目録「未払賃金額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成九年九月二六日から支払済みまで年六分の割合による各金員を支払え。

三  被告は、別紙未払賃金目録(三)記載の原告らに対し、同目録「未払賃金額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成九年一〇月二五日から支払済みまで年六分の割合による各金員を支払え。

四  被告は、別紙未払賃金目録(四)記載の原告らに対し、同目録「未払賃金額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成九年一一月二六日から支払済みまで年六分の割合による各金員を支払え。

五  被告は、別紙未払賃金目録(五)記載の原告らに対し、同目録「未払賃金額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成九年一二月二六日から支払済みまで年六分の割合による各金員を支払え。

六  被告は、別紙未払賃金目録(六)記載の原告らに対し、同目録「未払賃金額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成一〇年一月二四日から支払済みまで年六分の割合による各金員を支払え。

七  被告は、別紙未払賃金目録(七)記載の原告らに対し、同目録「未払賃金額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成一〇年二月二六日から支払済みまで年六分の割合による各金員を支払え。

八  被告は、別紙未払賃金目録(八)記載の原告らに対し、同目録「未払賃金額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成一〇年三月二六日から支払済みまで年六分の割合による各金員を支払え。

九  被告は、別紙未払賃金目録(九)記載の原告らに対し、同目録「未払賃金額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成一〇年四月二五日から支払済みまで年六分の割合による各金員を支払え。

一〇  被告は、別紙未払賃金目録(一〇)記載の原告らに対し、同目録「未払賃金額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成一〇年五月二六日から支払済みまで年六分の割合による各金員を支払え。

一一  被告は、別紙未払賃金目録(一一)記載の原告らに対し、同目録「未払賃金額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成一〇年六月二六日から支払済みまで年六分の割合による各金員を支払え。

一二  被告は、別紙未払賃金目録(一二)記載の原告らに対し、同目録「未払賃金額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成一〇年七月二五日から支払済みまで年六分の割合による各金員を支払え。

一三  被告は、別紙未払賃金目録(一三)記載の原告らに対し、同目録「未払賃金額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成一〇年八月二六日から支払済みまで年六分の割合による各金員を支払え。

一四  被告は、別紙未払一時金目録(一)記載の原告らに対し、同目録「未払賃金額」欄記載の各金員及び同目録「平成9年12月22日までの遅延損害金」欄記載の各金員を支払え。

一五  被告は、別紙未払一時金目録(二)記載の原告らに対し、同目録「未払賃金額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成九年九月二〇日から支払済みまで年六分の割合による各金員を支払え。

一六  被告は、別紙未払一時金目録(三)記載の原告らに対し、同目録「未払賃金額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成九年一二月一一日から支払済みまで年六分の割合による各金員を支払え。

一七  被告は、別紙未払一時金目録(四)記載の原告らに対し、

1  同目録「未払賃金額」欄記載の各金員

2  右各金員に対する平成一〇年一一月一八日から支払済みまで年六分の割合による各金員

3  同目録「平成10年11月17日までの遅延損害金」欄記載の各金員をそれぞれ支払え。

一八  訴訟費用は、被告の負担とする。

一九  この判決は、一八項を除き、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  主文一項ないし一八項と同旨

2  仮執行宣言

二  被告

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  事案の概要

一  本件は、被告会社の従業員(タクシー乗務員)であり同一労働組合に加入していた原告らが、その月例賃金及び一時金について、被告と右組合の間で平成五年に締結した労働協約の支給基準による計算額の一部しか支払われなかったとして、被告に対し、右協約の支給基準による計算額から既払金を控除した残金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。

二  前提事実(争いのない事実以外については証拠を併記)

1  当事者

被告は、タクシー業を営む会社であり、平成一〇年一月当時、従業員約一七〇名を雇用し、営業車輌約六四台を有していた。原告らは、いずれも被告に雇用され、隔日勤務のタクシー乗務員として業務に従事していた者であり、被告に勤務するタクシー乗務員の一部で結成された自交総連鈴蘭交通労働組合(以下「自交総連労組」という。)の組合員又は組合員であった者である。

原告らのうち、原告横山昌利を除く一二名は、いずれも現在までに自交総連労組を脱退し又は被告会社を退職している。

2  本件協約

原告らの月例賃金及び一時金等の労働条件は、自交総連労組と被告との間の労働協約によるものとされてきたところ、自交総連労組と被告は、平成三年六月に実施された札幌周辺地区のタクシー運賃改定(値上げ)を受け、右改定運賃下の労働条件について団体交渉を行い、平成五年三月一五日付で、おおむね次のとおりの労働協約(以下「本件協約」という。)を締結した。(甲一、弁論の全趣旨)

(一) 月例賃金

一運賃一賃金制、出来高払制賃金を採用するものであるが、一運賃一賃金制とは、労使が運賃改定ごとに当該運賃体系に沿った賃金を協議決定するという制度であり、出来高払制とは固定給的要素がないオール歩合制の賃金体系をいう(乙六五)。

(1) 基本歩合

五七歳の誕生日の前日まで 月間稼働高の23.56パーセント(1時間につき0.124パーセント×190時間)

五七歳誕生日から定年まで 月間稼働高の23.06パーセント

(2) 精勤歩合

月間稼働高の一九パーセント

(3) 深夜割増

(基本歩合給+精勤歩合給)÷総労働時間×0.25×48

(4) 年次有給休暇補償

前三か月の賃金総額を、当該期間中の総労働日数で除した平均賃金

(5) 支給日は毎月二五日(ただし、当日が銀行休業日のときは前営業日)

(二) 一時金

(1) 支給額算定対象期間及び支給対象者

夏季 一一月二一日から翌年五月二〇日まで六か月間勤務した者で、支給日当日在籍者

秋季 二月二一日から八月二〇日まで六か月間勤務した者で、支給日当日在籍者

年末 五月二一日から一一月二〇日まで六か月間勤務した者で、支給日当日在籍者

(2) 支給額

夏季 対象期間中の各人の実稼働高に有給休暇中の仮想稼働高を加えた金額(以下「対象稼働高」という。」)の6.6パーセント

秋季 同3.5パーセント

年末 同11.6パーセント

(3) 支給日(ただし、当日が銀行休業日の場合は前営業日とする。)

夏季 六月一〇日

秋季 九月二〇日

年末 一二月一〇日

(三) 自交総連労組と被告は、本件協約締結当時、近い将来再度の運賃改定が認可される情勢であったことから、運賃改定があったときは新労働協約を締結することとし、本件協定書に「現行運賃における労働条件に関し」定める旨明記した。

3  第二次運賃値上げ

(一) 平成五年六月一四日、札幌周辺地区のタクシー運賃改定(値上げ)が運輸大臣に認可され、同月二二日から実施された。

(二) 自交総連労組と被告は、右改定運賃下の労働条件について、団体交渉を行った(甲四、二八ないし三一)。同月一七日の交渉において、自交総連労組は、組合員の賃上げを要求したが、被告は、しばらく運賃改定後の運賃収入状況の動向をみなければ賃上げはできないとの回答をした。

以後、自交総連労組と被告は、同年中に九回、平成六年中に八回の団体交渉を行ったが、新労働協約の妥結に至らなかった。被告は、その間、原告らに対し、本件協約の支給基準に基づき月例賃金及び一時金を支払った。(弁論の全趣旨)

4  本件協約の解約告知及び一時金の減額支給

(一) 被告は、平成七年五月一六日の団体交渉において、自交総連労組に対し、同年の一時金について、対象期間の稼働高が三三五万円以上の者については従来より支給率を引き上げるが、三三五万円未満の者については支給率を引き下げる旨の改定協約案を申し入れた。自交総連労組は、これを拒否した。

(二) その後、被告は、原告らに対する同年夏季及び秋季一時金を支給日に支払わなかった。原告らが同年一〇月一九日、札幌地方裁判所に対し右一時金の仮払仮処分命令の申立てをしたところ、被告は、同年一一月七日、原告らに対して任意に申立額を支払った。

(三) 被告は、同月一六日、自交総連労組に対し、主位的に平成五年六月二二日の運賃改定により本件協約が失効したことの確認を求め、予備的に労働組合法一五条三項の手続により本件協約の解約を告知する旨の通告書を交付した。(甲五)

(四) 被告は、同年末一時金から、自交総連労組組合員の一時金について、次の基準により支給した。

平成七年末一時金  対象稼働高の一〇パーセント

平成八年夏季一時金 対象稼働高の五パーセント

平成八年秋季一時金 有給休暇中の仮想稼働高を加えない実稼働高の3.5パーセント

平成八年末一時金  対象稼働高の一〇パーセント

平成九年夏季一時金 実稼働高の4.5パーセント

5  第三次運賃値上げ及び月例賃金の支給率引下げ

(一) 平成九年四月からいわゆる週四〇時間労働制が完全実施される(以下「時短」という。)ことから、自交総連労組と被告は、同年三月六日付で、同月二一日以降の勤務体制の変更について合意をした。その結果、月間の所定労働時間は一九〇時間から一七一時間に短縮された。

時短にあわせて、札幌周辺地区のタクシー運賃変更(消費税込みで9.3パーセントの値上げ)が認可され、同年四月一日から実施された。

(二) 被告と自交総連労組は、平成九年三月二一日以降の賃金体系に関しては今後の交渉によるものとし、合意に至っていなかったところ、被告は、同年四月分の月例賃金から、原告ら(既退職者を除く。)に対し、本件協約の基準による支給歩合率をその所定労働時間数(一九〇時間)で除して一時間当たりの支給歩合率を算出し、これに新所定労働時間数(一七一時間)を乗じて算出した支給歩合率による賃金を支給するようになった(以下「労働時間比率支給」という。)。

6  仮処分命令及び一部未払

(一) 原告らは、平成九年九月一七日、札幌地方裁判所に対し、被告に同年四月分から八月分までの月例賃金及び平成七年年末から平成九年夏季までの各一時金につき、本件協約の支給基準による計算額と既払額との差額分の仮払を命ずる旨の仮処分命令を申し立て、同裁判所は平成九年一二月一九日、右申立を認容する決定をした。

(二) 被告は、同月二二日、原告らに対し、右各金員を仮払したが、それ以降の月例賃金及び一時金については、本件協約の支給基準による計算額の一部のみを支払っている。(弁論の全趣旨)

また、原告ら(既退職者を除く。)の平成一〇年夏季一時金については、支給日に支払がなく、同年一一月一七日に本件協約の支給基準による計算額の一部が支払われた。

三  争点

1  本件協約で定められた月例賃金及び一時金の各支給基準の効力について

(一) 原告ら

(1) 自交総連労組と被告は、平成五年六月一七日の団体交渉の席上、同月二二日以降の改定運賃を前提とした新労働協約が成立するまで、本件協約の効力を維持するとの合意をした(以下「本件延長合意」という。)。

したがって、仮に平成五年六月の運賃改定実施により本件協約が終了すべきものとしても、原告らは本件延長合意に基づき本件協約の支給基準による月例賃金及び一時金請求権を有する。

(2) 本件協約は、本件延長合意により、その有効期間につき新労働協約が締結されるまでとする不確定期限を定めたものとなったから、労働組合法一五条三項にいう「有効期間の定がない労働協約」とはいえず、被告が平成七年一一月一六日にした解約告知は効力がない。

(3) 仮に被告の解約告知により本件協約が失効したとしても、賃金及び一時金の定め等、労働組合法一六条にいう「労働条件その他の労働者の待遇に関する基準」は、本件協約締結により原告らと被告の間の労働契約の内容となっている。したがって、本件協約失効後も、自交総連労組と被告の間で新たな労働協約が締結されるか又は被告と各原告の間で労働条件変更の合意がなされない限り、本件協約による従前の労働条件が労働契約の内容として存続する。

(二) 被告

(1) 本件協約は、「現行運賃における労働条件」を定めるものと協定書に明記し、運賃体系を基礎として賃金体系を定める「一運賃一賃金制」を採用したものであるから、当該運賃体系が変更されるまでを有効期間として定めたものである。

したがって、平成五年六月の運賃改定の実施により、また遅くとも平成九年四月の運賃改定の実施により本件協約は終了して失効し、右以降被告と自交総連労組の間に新たな労働協約が成立していない以上、原告らは賃金及び一時金について具体的請求権を有しない。

(2) 本件延長合意が成立した事実はない。

また仮に、本件延長合意が成立していたとしても、被告が平成七年一一月一六日にした本件協約の解約告知により、その九〇日後に本件協約は失効している。

(3) 一般論として労働協約中の規範的部分が労働契約の内容となり、労働協約の失効後も存続する余地があるとしても、本件については、次の諸事情に照らして右法理は妥当せず、原告らは本件協約の支給基準による賃金又は一時金請求権を有しない。

すなわち、本件協約が採用した一運賃一賃金制は、運賃増額により生ずる会社の増収分を、賃金額に反映するための制度である。反面、景気の悪化等により減収が生ずるときは、運賃の増加分が賃金に反映されないデメリットもあるが、右は、自らの意思で労働協約を締結した自交総連労組において甘受すべきである。

ところで、被告は、平成五年六月の改定運賃下における収益の増減を検討したが、景気の下降が予想以上に厳しく、営業収益は上がらなかった。

また、自交総連労組組合員は、一日当たりの平均稼働高及び平均走行距離が全社平均値を大きく下回り、収益率が低かったため、被告は、運賃増加分を原告らの賃金に反映させることはできないと判断した。

そこで、被告は、収益に関する数値を自交総連労組に対して示し、実態に即した内容の新労働協約の締結を提案したが、自交総連労組は団交に頑なに応じようとせず、不況が長期化して本件協約の支給基準の方が有利とみるや突然、本件延長合意を主張し始め、被告の説明を一切受け付けなくなった。

他方、他組合である全自交鈴蘭交通労働組合(以下「全自交労組」という。)は、被告の説明を実質的に検討し、自らの労働強化により水揚げ上昇させ、右を労働条件改善のための交渉材料としている。

以上の事情のもとでなお、本件協約の支給基準が労働協約の内容となって存続すると解すれば、会社の言い分を無視し続けた者が、有利な労働協約の適用を受け続けることとなり、不合理である。

2  一時金支給率引下げの当否について

(一) 原告ら

(1) 右1(一)のとおり、いずれにしても、被告は、原告らに対し、本件協約の支給基準に基づき、平成七年末分からの一時金を支払うべきである。

(2) 被告が原告らの一時金を減額支給した措置は、賃金規定の一方的不利益変更又は支給額の一方的引下げであり、これを正当化できる事情は何もない。

なお、被告は、他組合員及び非組合員に対しては、夏季及び年末一時金について本件協約の支給基準を最低水準とする累進歩合制により支給し、秋季一時金も全体平均において原告らの水準を相当額上回る基準で支給している。本件協約の支給基準さえ下回る右減額支給の措置は、少数組合である自交総連労組に対する差別的取扱いである。

(二) 被告

(1) 右1(二)のとおり、いずれにしても本件協約の支給基準は効力を失っているから、原告らは、一時金の具体的請求権を有しないものである。

(2) そして、被告は、右を前提として、被告と自交総連労組の間で争いのない範囲(すなわち、被告提示の基準によった額)の一時金を暫定支給したものであり、これに当たっては、仮に新労働協約の内容が右暫定支給額よりも労働者に有利に妥結したときは、不足額を遡って精算することを提示し、自交総連労組もその旨了承していた。

右暫定支給額についても、原告ら主張の請求額との比較において、その約八〇パーセントにあたる高率の支給を行っている。本件暫定支給は、金額の点でも合理的である。

なお、原告らは、他組合との関係において賃金差別があると主張するが、右差異は組合員の収益力の違い等に起因するものであるから、差別ではない。

3  月例賃金歩合率引下げの当否

(一) 原告ら

(1) 前記1(一)のとおり、本件協約の支給基準は、なお効力があるから、被告は、これに基づき、月例賃金を支払うべきである。

のみならず、月例賃金については、自交総連労組と被告は、本件協約の解約告知後も、従前どおり本件協約の支給基準に基づき月例賃金を支給する旨確認をし、現にそのとおり月例賃金が支払われ、また、時短に伴う平成九年三月二一日の勤務体制変更に際し、自交総連労組と被告は、同月六日及び同年四月二一日の団体交渉の席上において、月例賃金については本件協約の支給基準に従うことを確認している。

(2) 本件協約における月例賃金の支給基準と時短との関係について

時短が実施された後も、賃金体系について新労働協約が合意されない限り、本件協約の支給基準がそのまま適用されて月例賃金が支払われるべきであることに変わりはない。そして、被告がした労働時間比率支給は、本件協約の趣旨に反するものである。

すなわち、本件協約が採用したオール歩合給制は、月間稼働額に一定の歩合率を乗じて月例賃金を算出する、月給制の出来高払制度である。同制度においては、あくまで月間稼働高に対する歩合率にこそ重点があるのであって、労働時間の減少に応じて歩合率が変わることはあり得ない。

また、自交総連労組、被告ともに、本件協約締結当時、労働時間が変更されるとの認識はなかったから、本件協約は所定労働時間を賃金の算定基礎としたものではない。なお、本件協約の月例賃金の支給基準において、基本歩合給の計算式に「1時間につき0.124%×190時間」と記載されたのは、割増賃金等を計算する便宜のため、時間当たり賃金の計算方法を明示したのに過ぎない。

被告主張のように、所定労働時間の減少に伴い歩合率が減少するものとすれば、時短に伴う稼働高の減少が運賃値上げにより補われるとしても、なお歩合率が引き下げられる結果、月例賃金は明らかに減少する(運賃値上げによる乗客の乗り控え等も考慮すれば、さらに減少が見込まれる。)。自交総連労組がかかる不利な支給基準に同意することはあり得ない。

(3) 月例賃金歩合率引下げの不合理性

被告の月例賃金の減額支給もまた、一方的な引下げに過ぎず、右引下げを正当化する事情は何もない。

なお、他組合(全自交労組)組合員及び非組合員の月例賃金については、支給対象者の月間稼働高に対する支給率は四六パーセントを超えるのに対し、自交総連労組組合員に対する支給率は四一パーセントに満たない。かかる差別には合理的な理由がない。被告は、原告らに対する賃金を減額することにより、自交総連労組組合員を脱退に追い込もうとしているのに他ならない。

(二) 被告

(1) 前記1(二)のとおり、いずれにしても本件協約の支給基準は効力を失っているから、原告らは、月例賃金の具体的請求権を有しないものである。

自交総連労組と被告が本件協約の支給基準に基づき月例賃金を支払う旨の確認をした事実は否認する。

(2) 支給金額の合理性

被告は、本件協約の支給基準が失効している以上、原告らに対し月例賃金の暫定支給をせざるを得ないので、以下のとおり、時短に伴い、本件協約の支給基準を基礎とする労働時間比率支給をしたものであり、本件協約の趣旨に沿った合理性のあるものである。

① 本件協約における基本歩合給及び精勤歩合給は、次のとおり、総稼働高に一定の係数及び所定労働時間数を乗じて算出される。

基本歩合給 総稼働高×0.124(係数)×190時間

精勤歩合給 総稼働高×0.1(係数)×190時間

② 被告は、本件協約締結当時、将来所定労働時間が減少することを想定し、所定労働時間を月例賃金の算定の基礎とする趣旨で右支給基準を提案したもので、自交総連労組はこれを承諾した。

したがって、所定労働時間の減少により月例賃金の支給率が減少するというのが、本件協約の支給基準についての合理的解釈である。

③ 右のとおり所定労働時間を月例賃金の算定基礎としたからといって、時短によっても実質的な賃下げにはならない。

法令の改正等により所定労働時間が短縮される場合、あわせて運賃改定(値上げ)が実施され、時短に起因する企業の営業収入減とのバランスが図られるのがハイ・タク業界の通例である。従業員が従前と同じ時間勤務するときは、運賃増額分だけ稼働高も増加することになるから、時短による支給率の減少分と右運賃の増額分がほぼプラスマイナスゼロの関係にある。

被告は、右の事情も考慮して、所定労働時間を月例賃金の算定基礎とすることを提案した。

④ また、自交総連労組と被告は、平成九年三月二一日以降の勤務体系の変更について合意をした際、賃金体系についての新労働協約が成立したときは同日に遡及して適用する旨合意した。

⑤ 以上により、本件暫定支給額には十分な合理性があり、違法、不当な点はない。

第三  争点に対する判断

一  争点1(本件協約で定められた月例賃金及び一時金の各支給基準の効力について)

1  前記前提事実によれば、自交総連労組と被告は、平成三年六月の運賃改定を受けて、賃金体系の改定のため団体交渉を行い、平成五年三月一五日付で本件協約を締結したものであり、その際、近い将来再度の運賃改定が予想された(現にその三か月余り後に運賃改定が実施された。)ため、運賃改定後は新労働協約を締結するとの趣旨から、本件協定書(甲一)に「現行運賃における労働条件に関し」定めるものとし、月例賃金の支給基準に関する条項中にも「一運賃一賃金制」を採用した旨を明記したものであることが明らかである。

そうすると、右協約当事者間においては、本件協約締結当時、平成五年六月二二日の運賃改定以降も当然に本件協約を存続させるとの意思はなかったと認められるから、本件協約は同日の運賃改定の実施をもって終了したものというべきである。

2(一)  次に、本件延長合意の成否についてみるのに、前記前提事実に甲三、四、一五、乙一、六五、七六、証人山田隆義、原告上野本人及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(1) 平成五年六月一四日、札幌周辺地区のタクシー運賃改定(値上げ)が認可され、同月二二日から実施された。右運賃改定申請の理由は、乗務員の労働時間短縮を含む労働条件の改善、利用者に対するサービスの向上及びタクシー会社の経営収支の改善を図るというものであった。

(2) 自交総連労組は、右申請理由の一に労働条件の改善が掲げられていたことから、被告に対して団体交渉を申し入れた。

(3) 同月一七日の団体交渉の席上において、自交総連労組側が賃上げを求めたのに対して、被告側は、右運賃改定に伴う営業収入の増加分(実増率)の動向をみた上で新労働協約を締結する意向を述べるとともに、新労働協約締結までの賃金の支給基準については、「新協約の締結までは現行の賃金支給率で支給する」「余後効でいく」などと回答した。自交総連労組は、右の回答を承諾した上で、さらに新労働協約が成立したときはこれを右運賃改定時に遡及して適用することを要求した。自交総連労組と被告は、その後の団体交渉において、右遡及支給についても合意をした。

(4) 被告は、右運賃改定後、平成七年に至るまで、原告らに対し、本件協約の支給基準による月例賃金及び一時金を支払い続けた。

(二)  右認定事実を総合すると、自交総連労組と被告は、平成五年六月の運賃改定後の月例賃金及び一時金に関し、新労働協約締結までの間、本件協約の支給基準による旨の本件延長合意をしたものと認められる。

被告の取締役業務部長である証人山田隆義は、同月一七日の団体交渉の席上において、新労働協約締結時までの賃金の支給基準について、被告側から右(一)(3)のような回答がなされた事実はない旨供述し、同人の陳述書(乙六五)にも同旨の供述記載があるけれども、右団体交渉の経過を記載した自交総連労組のメモ(甲四)には被告側から右回答があった旨が明記されている上(なお、被告から自交総連労組との団体交渉の経過を記載した書証は提出されていない。)、右認定のとおり、その後現に本件協約の支給基準に基づき月例賃金及び一時金が支払われていたことなどに照らし、右供述及び供述記載はとうてい採用することができない。

なお、被告は、右認定に沿う原告上野本人の供述について、北海道地方労働委員会の審問における同人の供述(乙七六)とのくい違いがあることを挙げてその信用性がない旨主張するけれども、右相違点は必ずしも重要なものではなく、原告上野本人の供述の信用性に影響を及ぼすものとはいい難いから、被告の右主張は採用の限りではない。

3  本件協約中の月例賃金及び一時金の各支給基準は、右のとおり、本件延長合意により新労働協約が締結されるまで効力が延長されたというべきである。

ところで、本件協約が新労働協約締結まで効力を有するとの合意によるときは、労使一方の意思により、すなわちいずれかが新労働協約の締結に応じない限り、本件協約の効力が無期限に延長され得ることとなるから、本件延長合意により効力が延長された本件協約は、労働組合法一五条三項にいう有効期間の定めがないものに当たるというべきであり、一方当事者は、本件協約を同項所定の手続により解約できるものと解される。

そして、前記のとおり、被告は、平成七年一一月一六日、自交総連労組に対し、所定の手続により本件協約の解約告知をしたことが認められるから、その九〇日後である平成八年二月一四日の経過をもって、本件協約は失効したものというべきである。

4 次に、本件協約自体が失効しても、その後も存続する原被告間の労働契約の内容を規律する補充規範が必要であることに変わりはなく、就業規則等の右補充規範たり得る合理的基準がない限り、従前妥当してきた本件協約の月例賃金及び一時金の支給基準が、原被告間の労働契約を補充して労働契約関係を規律するものと解するのが相当であり、他に補充規範たり得る合理的基準は見出し難い。

5 ところで、被告は、本件の諸事情の下においては、本件協約の月例賃金及び一時金の支給基準が原被告間の労働契約の内容を補充するという法理は適用されるべきでない旨主張し、その理由として、自交総連労組は、自己責任により増収が図られないときには賃金上昇にならないデメリットを有する一運賃一賃金制を基本とする本件協約を締結し、実際、その後運賃改定があったものの、予想以上の景気の下降により営業収入が上がらず、しかも、原告ら自交総連労組組合員の一日当たりの平均稼働額及び平均走行距離は全社平均額を大きく下回ったことなどから、被告は、運賃増加分を同組合員らの賃金に反映させることはできないと判断し、収益状況を示しながら実態に即した新労働協約の締結を提案したが、同組合は、団体交渉に応じず、不況が長期化して本件協約の支給基準の方が有利とみるや突然、本件延長合意を主張し始めたものであり、被告の説明を検討し、自らの労働強化により水揚げを上昇させて労働協約の締結に当たった全自交労組との対比からしても、右法理の適用によって、被告の言い分を無視し続けた者が有利な労働協約の適用を受ける結果となり、不合理であるなどと主張する。

しかしながら、一運賃一賃金制の賃金体系が被告主張のような組合員にとってデメリットをも有するものであるか否かはともかく、平成五年六月に実施された運賃改定後の被告の営業収入や収益状況がそれ以前と比べてどのようなものであったかを被告から自交総連労組に提示し説明したことについては、何らの立証もない(もっとも、乙五ないし六〇及び弁論の全趣旨によると、平成五年一〇月から平成一〇年五月までの被告の従業員一日当たりの売上高及び走行距離が、被告全社平均と自交総連労組組合員平均のそれぞれについて集計されており、これによる限り、後者は前者に比べ相当程度少ないことが認められるけれども、原告らの指摘するとおり、右集計結果は、時間単位の売上高及び走行距離が明らかにされておらず、何よりも右運賃改定前のものが対象とはされていないから、運賃改定前後を通じての被告の営業収入や収益状況を明らかにするものではない。)。のみならず、甲一五、一六、二七、原告上野本人及び弁論の全趣旨によると、右運賃改定後の平成七年五月一六日、被告から自交総連労組に対し、一時金の支給基準について、前記労働協約案の提示があったが、これは、売上げに累進して一時金が支給されるというものであって、被告の基準によると、自交総連労組のほとんどの組合員にとって一時金が減少されるというものであったことから、同組合は、右提案を受け入れなかったこと、その後の平成九年六月に被告から自交総連労組に対し、賃金体系について、固定給制度を基本とする労働協約案の提示があったが、これは、固定給の一つである安全走行手当について、一勤務一六時間のうち、一四時間の実走行時間がなければ満額支給されず、これに達しなければ約半額に減額されるというものであり、客待ちの時間を考慮すると、実際上、一四時間の実走行時間を確保することが困難であって、満額の安全走行手当を受けることができないおそれがあったことから、自交総連労組は、これについても締結を拒否したことが認められ、これらの事実に照らすと、被告が相応の理由を説明して合理的な新労働協約の提案をしたかどうか極めて疑問であり、自交総連労組の右のような対応を非難することはできない。そして、前記のとおり、本件延長合意は、平成五年六月一七日に成立していたものであり、自交総連労組がその事実がないのにあるかのように主張しているものではないことは明らかである。

以上によると、被告の右主張は、そもそもその根拠とする事実が認められないものであり、前提を欠くものであるから、採用する余地がない。

二  争点2(一時金支給率引下げの当否について)

1  被告は、原告らに対し、平成七年末分からの一時金について、本件協約の支給基準どおり支払っていないものであるが、争点1で説示したとおり、平成八年二月一四日までは本件延長合意により本件協約の支給基準の効力があり、その後においては原被告間の労働契約の内容を補充するものとして右支給基準が適用されるものであるから、いずれにしても、被告は、原告らに対し、右支給基準に基づき、平成七年末からの一時金を支払うべきである。

2  これに対し、被告は、被告と自交総連労組の間で争いのない範囲の一時金を暫定的に支払っており、その金額も原告ら主張額の約八〇パーセントであって高額であり、将来締結される新労働協約の支給基準が右支給額を超えた場合にはこれを遡及して適用することを提示しているのであるから、被告の右暫定支給は合理的であって適法である旨主張する。

しかしながら、被告が自交総連労組との間で争いのない範囲の一時金を支払っているというが、もとより、被告の右支給基準は、自交総連労組が承諾しているものではなく、一方的な提示額に過ぎないものであり、しかも、その合理性を根拠付ける格別の立証はないのであるから、被告の右主張もその前提を欠くものといわざるを得ない。

三  争点3(月例賃金支給率引下げの当否について)

1  争点1で説示したとおり、月例賃金についても、平成八年二月一四日までは本件延長合意により本件協約の支給基準の効力があり、その後においては原被告間の労働契約の内容を補充するものとして右支給基準が適用されるものであるから、いずれにしても、被告は、原告らに対し、右支給基準に基づき月例賃金を支払うべきである。

なお、前記前提事実に甲五及び弁論の全趣旨をあわせると、被告は、前記解約告知以後、本件協約の失効を主張する一方で、月例賃金については、特段の異議を述べず、その後平成九年三月分まで、本件協約の支給基準に基づき原告らに支給していたことが認められるが、このことからも、右支給基準が原被告間の労働契約の内容を補充するものとなっていたことが肯認できるものといえる。

2 ところで、前記のとおり、労働基準法の改正を受けて、被告においても、平成九年三月二一日から時短が実施され、自交総連労組組合員の稼働時間は、従前の月間一九〇時間から月間一七一時間に短縮されたことが認められるが、それを前提とする賃金体系について、いまだ被告と自交総連労組の間で労働協約が締結されていないから、原被告間の労働契約の内容として本件協定の月例賃金の支給基準が適用されるという関係は、特段の事情のない限り、時短後においても、存続するものというべきである。

3 この点について、被告は、被告が原告らに暫定的に支払った労働時間比率支給は、本件協定の支給基準の趣旨に沿った合理性のあるものであり、右特段の事情があるものとして適法というべきである旨主張し、その理由として、被告は、将来の時短を想定し、所定労働時間を算定の基礎とする趣旨で本件協定における月例賃金の支給基準を提示し、自交総連労組も承諾したものであり、また、時短と同時に運賃改定(値上げ)が実施され、稼働額が上昇するため、労働時間比率支給によっても実質的には賃下げとはならないなどと主張する。

しかしながら、本件協定の月例賃金の支給基準によると、月例賃金は基本的に歩合率に月間稼働高を乗じて算出するものであり、右歩合率は主に基本歩合と精勤歩合を合算するものとされているところ、基本歩合については、一時間当たりの歩合率0.124パーセントが掲げられ、これに月間労働時間(一九〇時間)を乗じて23.56パーセントとされているものの、精勤歩合については、一律に一九パーセントとされ、時間単位の要素は入れられてないものといえる。そして、右支給基準は、オール歩合制を採用して従業員の歩合率を定めるというものであるから、基本歩合における月間労働時間(一九〇時間)の要素よりも、最終的な歩合率に重点が置かれているものと理解されるのである。

また、本件協定の月例賃金の支給基準は、前記のとおり、一運賃一賃金制を採用するものであり、被告と自交総連労組は、近々運賃改定が行われることを想定し、その場合には新たに労働協約を締結する趣旨で、本件協定書にも「現行運賃における労働条件に関し」と明記したものであり、他方、証人山田隆義及び弁論の全趣旨によると、当時、週四〇時間労働制は平成九年に実施されるものとされており、右現行運賃が存続する間に時短が実施されることは想定されていなかったことが認められるから、右支給基準が将来の時短を想定して所定労働時間を算定の基礎とする趣旨で合意されたものでないことは明らかである。これに反する証人山田隆義の供述部分及び同人の陳述書(乙六五)中の供述記載は採用することができない。

さらに、前記のとおり、時短の実施にあわせて平成九年四月一日から運賃改定(消費税込9.3パーセントの値上げ)がなされたが、仮に自交総連労組組合員の月間稼働高が右運賃値上げ後直ちにこれに比例して増額するとしても、労働時間比率支給によるとやはり数パーセントの月例賃金の減少は避けられないのである。このように、数パーセントとはいえ、賃下げを招来すること自体、被告の実施した労働時間比率支給の合理性を疑わしめるものである。のみならず、証人山田隆義によると、一般的に、タクシーの運賃値上げが実施されると、しばらく、顧客の乗り控えが生じ、従業員の稼働額は上昇しないことが認められるのであるから、このことを考慮すると、平成九年四月の運賃改定直後から被告が実施した労働時間比率支給はますます合理性を欠くものといわざるを得ない(被告は、前記のとおり、平成五年六月の運賃改定については、同月一七日の団体交渉において、その後の実際の営業収入の増加分(実増率)の動向をみた上で新労働協約を締結する意向を述べており、また、争点1に関しても、右運賃改定の後の営業収入は予想以上の景気の下降により上がらなかったことなどから、運賃増加分を同組合員らの賃金に反映させることはできないと判断したなどと主張しながら、ここにおいては、運賃値上げが直ちに同組合員らの月間稼働高に反映するものと主張しているものであり、御都合主義的であるとの非難を免れない。)。なお、甲七及び弁論の全趣旨によると、平成九年四月の運賃改定について、その認可に関わった北海道運輸局自動車部長は、同年六月三日、被告らタクシー業者で構成されている社団法人北海道乗用自動車協会に対し、指導通達を発し、右運賃改定の必要性は、時短に伴う乗務員給与の減少分の補填にあったのであるから、各事業者においては、その趣旨を再確認し、時短の実施により乗務員の賃金を下げることのないよう必要な措置をとることを要請したことが認められる。

加えて、前記のとおり、被告と自交総連労組は、時短の実施に際し、平成九年三月六日、同月二一日以降の勤務体制について合意したものであるところ、甲一五、一七、証人山田隆義、原告上野本人及び弁論の全趣旨によると、右合意は、時短の実施が切迫していたことから、とりあえず勤務体制についてのみ交渉し、成立したものであること、賃金体系については、別途交渉することが予定されたが、右勤務体制についての交渉の際に、被告側から時短がなされても時間単価が上がる旨の説明がなされたこともあって、自交総連労組が勤務体制について合意したものであり、同組合にとって、同年四月以後の月例賃金につき労働時間比率支給がなされることは予想できなかったことが認められる。

以上の検討によると、平成九年四月分以降の原告らの月例賃金について被告のした労働時間比率支給は、本件協約の趣旨に沿ったものとはいえず、合理性も認め難いものであるから、原被告間の労働契約の内容として本件協約の月例賃金の支給基準が適用される関係を排除し得る特段の事情があるということはできない。

4  以上のとおりであるから、被告は、平成九年四月分以降の原告らの月例賃金についても、本件協約の支給基準により支払うべきである。

四  以上によれば、原告らは、いずれも本件協約の支給基準による月例賃金及び一時金の請求権を有するものと認められる。

1  本件協約の支給基準により算定された原告らの平成九年四月分から平成一〇年八月分までの月例賃金額から既払金を控除した残額が別紙未払賃金目録(一)ないし(一三)のとおりであることは当事者間に争いがないから(なお、原告高久の平成一〇年五月分及び原告横山の同年七月分の各月例賃金については、本件協約の支給基準による月例賃金額が最低賃金法所定の基準を下回ることは争いがないから、最低賃金法所定の賃金額を支給すべきこととなる。)、原告らは被告に対し、原告ら主張のとおりの未払月例賃金債権を有する。

2  また、甲一〇、一二、一四及び弁論の全趣旨によれば、本件協約の支給基準により算定された原告らの一時金額から既払金を控除した残額は原告ら主張の額を下らないと認められるから、原告らは被告に対し、別紙未払一時金目録(一)ないし(四)記載のとおり未払一時金債権を有する。

3  右未払月例賃金及び未払一時金債権は商行為により生じたものであるから、原告らは、右各金員の支給日の翌日から支払済みまで商事法定利率六分の割合による遅延損害金債権を取得したものというべきである。

(一) そして、原告らの平成九年四月分から同年八月分までの未払月例賃金に対する各支給日の翌日から平成九年一二月二二日(支払済み)までの遅延損害金の合計は、別紙未払賃金目録(一)「平成9年12月22日までの遅延損害金」欄記載のとおりであるから、原告らは被告に対し、同欄記載の遅延損害金債権を有する。

(二) 次に、原告らの平成七年末分から平成九年夏季分の未払一時金に対する平成九年一二月二二日(一部支払のなされた日)までの遅延損害金の額は、別紙未払一時金目録(一)「平成9年12月22日までの遅延損害金」欄記載の額を下らないから、原告らは被告に対し、同欄記載の各遅延損害金債権を有する。

(三) また、原告らの平成一〇年夏季一時金については、被告は平成一〇年一一月一七日に別紙未払一時金目録(四)「既払額」欄記載の金員を支払ったことに争いがない。支払われるべき一時金に対する支給日(平成一〇年六月一〇日)の翌日から同年一一月一七日までの遅延損害金の額は、同目録「平成10年11月17日までの遅延損害金」欄記載のとおりであり、原告らは被告に対し、同額の遅延損害金債権を有する(なお、被告は、右一時金につき、被告が組合の組織変更の通知と、自交総連労組が存続する旨の通知をともに受領したため、組合の実態等が把握できず、平成一〇年一一月一七日まで支払うことができなかったと主張するが、被告は、右事情だけをもって遅延損害金債務を免れるものではない。)。

第四  結論

以上によれば、原告らの請求はいずれも理由があるから、これを認容することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官坂井満 裁判官龍見昇 裁判官土屋毅)

別紙未払賃金目録(一)〜(一三)<省略>

別紙未払一時金目録(一)〜(四)<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例